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私を取り戻す散歩

石丸奈菜美

 子を預かって貰って、私自身の定期検診をいくつかこなしたり、役所巡りや書類提出を済ませたりした。タイムスケジュール通りに進み、滞りなくすべてのタスクを終えることができた。達成感で胸がいっぱいだ。
 病院や役所の待合室では川上弘美の『このあたりの人たち』を読んでいた。短編なので、待ち時間のスキマ読書にもぴったりだ。ほんの少しだけでも物語に没頭できるありがたさを感じる。「もう少し読みたかった」と思う気持ちも、次への期待を膨らませてくれる。
 こうして、気を遣うことなく一人、自分のペースで歩き、立ち止まり、読書をする。妊娠してから、こんな時間はなかった。子を預けたのは約4時間。こんなに子と離れるのは、子が入院したとき以来だ。あのときは、個室で一人ぼっちの子が心配で心配で、時間がどのように過ぎていたのか、まったく覚えていない。
 役所から病院、また別の病院へと歩きながら、ふと本来の自分を感じた。少し早足で、大股。そうだ、きびきび歩くのが好きだった。大臀筋にしっかりと力が伝わる感覚に、思わず身体が嬉しくなる。息が切れそうになっても、足は止まらない。そんなときに、私は自分の身体を、そしてその動きの心地よさを実感しているのだ。

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ABOUT ME
石丸奈菜美
石丸奈菜美
俳優
1988年生まれ・神奈川県出身。1歳から4歳までをアメリカはデトロイト州で過ごす。帰国後、子役としてデビュー。映画、CM、バラエティなどで活動を続け、2018年に京都を拠点とする劇団・MONOのメンバーとなる。2024年4月に出産し、現在産休中。
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