尾方宣久さんの退団によせて
7月31日、MONOメンバーの尾方宣久さんの退団のお知らせがあった。(https://c-mono.com/news/monoinfomation_202507/)
とうとう発表の日が来てしまった。私がこのことを聞いたのは、『デマゴギージャズ』東京千秋楽を終えたあとのことだった。まさに青天の霹靂だった。
尾方さんがどれだけ素晴らしい役者であるかは私ごときが語るまでもないし、SNSなどをされていない先輩方を差し置いて長々と語るのは憚られるが、それでも、少しだけ……
尾方さんと芝居をするのは、本当に楽しい。
以前、芝居を楽しめるようになった出来事についてブログに書いたが、その転機となったのが『アユタヤ』での尾方さんとのシーンだった。私のささやかなチャレンジを、尾方さんは最大限に受け止めて、そして広げてくれる。「役者としての優しさ」というものを、私は尾方さんから学んだ。
『デマゴギージャズ』でもそうだ。
産休から復帰する際、ひそかに「尾方さんくらい真摯に稽古に臨もう」と目標を立てていた。もちろん足元にも及ばなかったけれど、その背中を追っていたおかげで自分のベストを尽くせた。本当に、心の底から楽しかった。悔いはない。
退団と引退の知らせを聞いたとき、とっさに、稽古の段階から知っていたかった、と思った。わかった状態で、一つひとつの瞬間を噛み締めたかった、と。けれど、尾方さんが「いつもどおりにやりたかった」と語るのを聞いて、すべてが腑に落ちた。そうか、知っていてもいなくても、私たちがやることは何も変わらなかったのだ。
尾方さんほどの役者が引退を決断する——その覚悟の重さを思うと、胸が詰まる。31年間という歳月をMONOに捧げ、芝居と真摯に向き合い続けた人が、「自分の演技に納得できない」と語る。その謙虚さと厳しさに、私は改めて役者という仕事の奥深さを感じずにはいられない。
話を聞いてから、今日に至るまでに心の整理をつけてきたつもりだった。他ならぬ尾方さんが決めたことだ、こんな風に決断ができるだなんてすごいことじゃないかと。でも、こうして公に発表されて、お客様のお声などを読むと、とうとう現実になってしまったんだと思って、また寂しくなる。
それでも、一番大きいのは深い感謝だ。尾方さんと芝居ができてよかった。尾方さんの芝居を観られて良かった。尾方さんがいるMONOの一員になれて良かった。
『デマゴギージャズ』のセリフを借りる。
わい、尾方さんの後輩で良かったと、切に思っとるに。